弁護士がSNS広告を出す前に確認すべきリスティング広告との違いと分野ごとの向き不向き
集客の手段を体系的に学んでいくと、リスティング広告とSNS広告の両方が選択肢に挙がります。「SNS広告はクリック単価が安い」という情報を目にすることもありますが、それだけで判断すると施策の方向を誤る可能性があります。両者の違いを正確に理解しておくことが、自分の事務所に合った広告手段を選ぶための前提になります。
SNS広告とリスティング広告の違いは、クリック単価の安さではありません。届く相手の状態が根本的に違います。この違いを知らないまま「安いから」という理由でSNS広告に切り替えると、クリックは増えても相談にはつながらず、リスティング広告で来ていた問い合わせまで減る可能性があります。
この記事では、SNS広告とリスティング広告の違いを「届く相手の状態」で整理したうえで、弁護士の取扱分野ごとの向き不向き、プラットフォームの選び方、広告規制の適用範囲、そして最終的に自分の事務所でSNS広告を出すかどうかの判断手順を順に示します。
SNS広告とリスティング広告の違い — 届く相手が「今すぐ相談したい人」か「まだ相談を考えていない人」かが分かれる
リスティング広告は、検索エンジンで「弁護士 離婚 相談」「交通事故 慰謝料 弁護士」のように検索している人に表示されます。つまり、すでに弁護士への相談を考えていて、相談先を探している人に届く広告です。
一方、SNS広告はInstagramやFacebookのタイムラインを眺めている人に表示されます。この人たちは、弁護士を探しているわけではありません。友人の投稿やニュースを見ている途中に広告が表示される形です。つまり、まだ弁護士への相談を考えていない人に届く広告です。
この違いを表にすると、次のようになります。
| 比較項目 | リスティング広告 | SNS広告 |
|---|---|---|
| 届く相手の状態 | 今すぐ相談先を探している | まだ相談を考えていない |
| クリック単価の傾向 | 高くなりやすい | 低くなりやすい |
| 相談への近さ | 近い(検索行動が相談の直前) | 遠い(認知から相談まで時間がかかる) |
| 向いている目的 | 相談・問い合わせの獲得 | 事務所の認知を広げる |
SNS広告のクリック単価がリスティング広告より低い傾向にあるのは、届く相手が「まだ相談を考えていない人」だからです。相談に近い人ほど広告の競争が激しくなり、クリック単価が上がります。SNS広告のクリック単価が安いことは、相談への距離が遠いことの裏返しでもあります。
そのため、「クリック単価が安い=費用対効果がよい」とは言い切れません。クリック単価が安くても、相談に至る割合が低ければ、1件の問い合わせを得るために使う金額はリスティング広告より高くなることもあります。
取扱分野ごとの向き不向き — 緊急性が高い分野はリスティング広告、認知を広げたい分野はSNS広告が向く
SNS広告とリスティング広告のどちらが向いているかは、自分の取扱分野の性質で判断できます。判断の基準は3つです。
判断基準1: 相談者の緊急性
相談者が「今すぐ弁護士に連絡しなければならない」と感じている分野では、相談者は検索エンジンで弁護士を探します。この場合、リスティング広告が相談に直結します。SNS広告を出しても、タイムラインを眺めている段階では相談にはつながりません。
判断基準2: 検討期間の長さ
相談者が「いつか弁護士に相談するかもしれないが、今すぐではない」と考えている分野では、検討期間が長くなります。この期間中にSNS広告で事務所の存在を知ってもらっておけば、相談を決めたときに想起される可能性があります。
判断基準3: 認知の必要性
そもそも「この問題で弁護士に相談できる」と知られていない分野では、検索行動自体が発生しません。SNS広告で「こういう場合は弁護士に相談できます」と伝えることで、将来の相談者を作る効果が期待できます。
この3つの基準をもとに、弁護士の主な取扱分野ごとの向き不向きを整理します。
| 取扱分野 | 相談者の状態 | 向く広告 |
|---|---|---|
| 交通事故 | 事故直後に弁護士を探す(緊急性が高い) | リスティング広告 |
| 刑事事件 | 逮捕・勾留の直後に弁護士を探す(緊急性が高い) | リスティング広告 |
| 離婚(紛争中) | 調停・訴訟が進んでいて弁護士を探している(緊急性が高い) | リスティング広告 |
| 離婚(協議・検討段階) | 離婚を考え始めているが、まだ弁護士に相談するか決めていない | SNS広告も選択肢になる |
| 相続(発生後) | 相続が発生して手続きが必要(緊急性がある) | リスティング広告 |
| 相続(生前対策) | 将来の相続に備えたいが、今すぐの相談ではない | SNS広告が向く |
| 企業法務・顧問契約 | 顧問弁護士の検討は長期で進む。認知が重要 | SNS広告が向く |
| 債務整理 | 返済に困って弁護士を探している(緊急性が高い) | リスティング広告 |
自分の取扱分野がこの表のどこに当てはまるかを確認してください。緊急性が高い分野を主力にしている場合、リスティング広告の予算をSNS広告に移すのは得策ではありません。一方、相続の生前対策や企業法務の顧問契約のように、相談者が長期間検討する分野では、SNS広告で認知を取ることに意味があります。
ひとつ注意が必要なのは、同じ分野でも相談者の状態によって向き不向きが変わることです。離婚を例にとると、調停中の人はすぐに弁護士を探すのでリスティング広告が向きますが、離婚を考え始めたばかりの人はまだ検索しないので、SNS広告で情報提供することが相談につながる可能性があります。
SNS広告を出す場合のプラットフォーム選び — Instagram・Facebookはターゲットの年齢層と分野で使い分ける
SNS広告を出すと判断した場合、次に決めるのはどのプラットフォームに出すかです。Instagram・Facebook・LINEは、利用者の年齢層や広告の見え方が異なります。ターゲットとする相談者の年齢層と、自分の取扱分野に合わせてプラットフォームを選びます。
| プラットフォーム | 利用者の中心年齢層 | 広告の見え方 | 相性のよい分野の例 |
|---|---|---|---|
| 40代〜60代が中心 | テキストと画像をあわせた投稿形式。長めの説明文も読まれやすい | 相続の生前対策、企業法務・顧問契約 | |
| 20代〜40代が中心 | 画像や動画が主体。視覚的に目を引くデザインが求められる | 離婚(検討段階)、労働問題 | |
| LINE | 幅広い年齢層 | トーク画面やタイムラインに表示。友だち追加で継続的な接点を作れる | 債務整理、離婚(検討段階) |
たとえば、相続の生前対策を考えている50〜60代にSNS広告を出す場合、Instagramよりもこの年齢層の利用者が多いFacebookのほうが届きやすい傾向があります。逆に、離婚を検討し始めた30代にはInstagramのほうが接触しやすい傾向があります。
ここで気をつけたいのは、プラットフォームを選ぶだけでは十分ではないという点です。SNS広告は、各プラットフォームの広告管理画面で年齢・地域・興味関心などのターゲティングを細かく設定できます。弁護士の場合、対応できるのは基本的に自分の事務所がある地域の相談者ですから、地域の絞り込みは必須です。地域を絞らずに全国に広告を出すと、相談に来られない地域の人にまで広告費を使うことになります。
また、複数のプラットフォームに同時に広告を出すと、少額の予算が分散して効果の測定が難しくなります。最初はひとつのプラットフォームに絞って始め、反応を見てから広げるかどうかを判断するほうが現実的です。
弁護士がSNS広告を出すときの広告規制 — 業務広告規程はSNS広告にも適用される
弁護士の業務広告に関する規程は、ホームページやリスティング広告だけでなく、SNS広告にも適用されます。不特定多数に向けて自分の業務を知らせる行為であれば、媒体を問わず規制の対象です。
リスティング広告で使えない表現はSNS広告でも使えません。「離婚専門」「解決実績No.1」「必ず解決します」といった表現は、SNS広告の画像やテキストに含めることもできません。
SNS広告にはリスティング広告と異なる特有の注意点がいくつかあります。広告を出す前に確認しておくべきポイントを整理します。
確認すべきポイント
- 画像・動画内の文言も規制の対象になる: SNS広告では画像や動画がクリエイティブの中心です。テキスト部分だけでなく、画像内に書き込んだ文言(「○○専門」「No.1」など)も業務広告規程の対象です。画像だから規制が及ばないということはありません
- 広告のリンク先ページも確認する: SNS広告をクリックした先のランディングページ(事務所のホームページ等)の内容も、広告の一部として見られます。広告本体の表現を気をつけても、リンク先のページに規制に触れる表現があれば問題になり得ます
- ターゲティングの設定自体は規制の対象ではない: 「30代女性」「東京都」「離婚に関心がある層」のようにターゲティングを設定すること自体は、業務広告規程の規制対象には該当しません。規制が及ぶのは広告として表示される内容(テキスト・画像・動画・リンク先)です
- 投稿と広告の違いに注意する: 事務所のSNSアカウントで日常的に投稿する内容(法律の解説記事など)と、広告費を払って配信するSNS広告は性質が異なります。広告として配信する以上、業務広告規程の対象であることを意識して内容を作成してください
判断に迷う表現がある場合は、所属する弁護士会に問い合わせて確認することをおすすめします。SNS広告は比較的新しい媒体であるため、具体的な表現がどこまで許容されるかの判断が定まっていない部分もあります。
自分の事務所でSNS広告を出すかどうかの判断手順 — リスティング広告を止める前に確認すること
ここまでの内容を踏まえて、自分の事務所でSNS広告を出すかどうかを判断する手順を整理します。
手順1: 自分の取扱分野の向き不向きを確認する
先ほどの分野ごとの表を見て、自分の主力分野が「緊急性が高い分野」か「検討期間が長い分野」かを確認します。緊急性が高い分野しか扱っていない場合、SNS広告の優先度は低くなります。検討期間が長い分野を扱っている場合は、SNS広告が選択肢に入ります。
手順2: リスティング広告の現状を整理する
今リスティング広告を出している場合、そこから月に何件の問い合わせが来ているかを確認します。この問い合わせは、リスティング広告の予算を削ると減る可能性が高いものです。SNS広告を始めるために、リスティング広告の予算を減らすのか、別に予算を確保するのかを決めます。
手順3: リスティング広告の予算を維持したまま、SNS広告を少額で試す
最も現実的な始め方は、リスティング広告の予算を維持したまま、別の予算でSNS広告を少額から始めることです。リスティング広告で取れている問い合わせを減らさずに、新しい経路を試せます。SNS広告は少額から始められるため、まずは反応を見ることに集中します。
手順4: プラットフォームをひとつに絞る
予算が限られている場合は、ターゲットの年齢層と分野に合ったプラットフォームをひとつ選びます。複数に分散させると、どのプラットフォームで反応があったのかの判断がつきにくくなります。
手順5: 広告の内容を広告規制に照らして確認する
広告のテキスト・画像・リンク先ページの内容を、業務広告規程に照らして確認します。判断に迷う表現は、配信前に所属弁護士会に相談します。
手順6: 反応を見て継続・停止を判断する
SNS広告は、リスティング広告のように出してすぐ問い合わせが来る広告ではありません。認知を広げる広告であるため、効果が見えるまでに時間がかかります。一定期間(少なくとも数か月)は続けたうえで、ホームページへのアクセス数の変化や、問い合わせの際に「SNSで見た」という声があるかどうかを確認し、継続するか停止するかを判断します。
重要なのは、SNS広告をリスティング広告の「安い代替手段」として位置づけないことです。リスティング広告で来ている問い合わせは、リスティング広告でしか取れない可能性があります。SNS広告は、リスティング広告では届かない層に事務所を知ってもらうための別の手段です。
まとめ — SNS広告は「安いリスティング広告」ではなく、届く相手の状態が違う別の手段
SNS広告とリスティング広告の違いは、クリック単価の安さではなく、届く相手の状態の違いです。リスティング広告は「今すぐ相談したい人」に届き、SNS広告は「まだ相談を考えていない人」に届きます。
弁護士の取扱分野ごとに向き不向きがあり、交通事故や刑事事件のように緊急性が高い分野はリスティング広告が向き、相続の生前対策や企業法務の顧問契約のように検討期間が長い分野はSNS広告で認知を広げることに意味があります。
SNS広告を始める場合は、リスティング広告で取れている問い合わせを維持したまま、少額で試すところから始めてください。プラットフォームはターゲットの年齢層と分野に合わせてひとつに絞り、広告の内容は業務広告規程に照らして確認してから配信します。