解決事例を載せるための条件と書き方

この章で学ぶこと

解決事例はホームページの中で最も説得力のあるコンテンツになり得ます。しかし、載せ方を間違えると広告規制に抵触するリスクや守秘義務違反のリスクがあります。この章では、解決事例を載せるために満たすべき3つの条件(依頼者の同意・匿名化・誇大/誤導の排除)と、条件を満たした書き方のテンプレートを学びます。

解決事例を載せることの集客上の意味

相談者がホームページで事務所を選ぶとき、取扱分野の一覧や弁護士の経歴だけでは判断材料が足りないことがあります。「この事務所は離婚を扱っている」ことは分かっても、「自分と似た状況の案件を実際に扱ったことがあるのか」は分かりません。

解決事例は、この疑問に直接答えるコンテンツです。「財産分与で争いがあった離婚案件で、調停を経て合意に至った」という事例があれば、財産分与で悩んでいる相談者は「この事務所は自分の状況を扱った実績がある」と判断できます。

集客上の効果

  • 相談の決め手になる — 複数の事務所を比較している相談者にとって、類似の事例を扱った実績が示されていることは、相談先を決める判断材料になります
  • 検索からの流入を生む — 「離婚 財産分与 解決事例」のような検索に対して、事例ページが表示される可能性があります。ただしSEOの効果を狙うには、事例の本数が一定数必要になります

ただし、載せ方を間違えると広告規制に抵触するリスクや、守秘義務に違反するリスクがあります。以下の3つの条件を順に確認しましょう。

条件1: 依頼者の同意を得る方法

解決事例をホームページに掲載するには、依頼者の同意が必要です。これは弁護士職務基本規程第23条の守秘義務に基づきます。弁護士は、職務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らしてはなりません。事件の内容をホームページに掲載することは、秘密の開示に該当する可能性があります。

同意を得るタイミング

同意は、案件の終了後に得るのが現実的です。案件の進行中は結果が確定していないため、掲載内容を決められません。また、進行中に同意を求めると、弁護士との関係性から断りにくいと感じる依頼者もいるため、案件終了後に改めて依頼するほうが適切です。

同意の取り方

  • 書面(同意書)で取得するのが最も確実です
  • 同意書には、掲載する内容の範囲(事案の概要・結果・匿名化の方法)を明記します
  • 掲載の取り下げを依頼者がいつでも要請できることを記載しておきます
  • 口頭での同意は、後日の紛争リスクがあるため推奨しません

同意が得られない場合

すべての依頼者が同意するわけではありません。同意が得られなかった案件は掲載しないでください。同意なく掲載した場合、守秘義務違反として懲戒の対象になる可能性があります。

条件2: 匿名化の具体的な基準

依頼者の同意を得た場合でも、本人が特定される形での掲載は避けるべきです。同意は「ホームページに載せてよい」という許可であり、「個人を特定できる状態で公開してよい」という許可とは限りません。匿名化は守秘義務の観点から必要であると同時に、依頼者の安心にもつながります。

匿名化で置き換える情報

情報 処理方法
氏名 完全に削除。イニシャルも使わない 「依頼者(40代女性)」
居住地 都道府県レベルに留めるか、削除する 「関東地方在住」
勤務先・職業 業種のみに抽象化するか、削除する 「会社員」
年齢 年代表記にする 「40代」
金額 具体的な金額は記載可能だが、後述の広告規制に注意。端数を丸める必要はないが、金額を強調する書き方は誤導のおそれがある
事件の詳細 争点に関係しない固有の事実(特定の日付・場所・関係者数など)を削除または抽象化する

匿名化の判断基準

匿名化が十分かどうかの判断基準は、「掲載された情報だけで、依頼者本人や関係者が特定される可能性があるかどうか」です。地域や業種の組み合わせ、事件の時期、争点の特殊性などから間接的に特定される可能性がないかを検討してください。判断に迷う場合は、情報をさらに抽象化する方向に寄せます。

条件3: 広告規制で避けるべき表現 — 誇大・誤導の禁止

ホームページに掲載する解決事例は、「弁護士等の業務広告に関する規程」の規制対象になります。特に注意すべきは、誇大広告(規程第3条第5号)と誤導のおそれがある広告(規程第3条第4号)の禁止です。

避けるべき表現の例

表現 問題点
「慰謝料○○万円を勝ち取りました」 「勝ち取った」という表現は成果を誇張する印象を与え、誇大広告に該当する可能性がある。また、同様の事案で同じ金額が得られると誤解させるおそれがある
「大逆転で勝訴」 事実の評価に主観が入っており、誇大な印象を与える
「100%の依頼者にご満足いただいています」 客観的に実証できない表現であり、誇大広告に該当する可能性がある
「この分野では負けたことがありません」 結果の保証と受け取られるおそれがあり、誤導に該当する可能性がある

使ってよい表現の考え方

  • 事実を淡々と記述します。「慰謝料として○○万円が認められた」は事実の記述であり、「勝ち取った」とは印象が異なります
  • 結果だけでなく経緯を記述します。「調停で○回の話し合いを経て合意に至った」のように、結果に至るまでのプロセスを書くことで、結果だけを強調する印象を和らげられます
  • 「すべてのケースで同様の結果が得られるわけではありません」という注記を添えます。これは免責としての効果もありますが、誠実な情報提供としても機能します

解決事例の記載テンプレート

3つの条件を踏まえた記載テンプレートを示します。実際の事例を掲載する際の参考にしてください。

項目 内容 記載例
分野 その事例が属する取扱分野 離婚(財産分与)
依頼者の属性 年代・性別(匿名化された範囲で) 40代女性
相談時の状況 依頼者が相談に来た時点の状況を簡潔に記述 婚姻期間20年。配偶者が自宅不動産の名義を主張し、財産分与の話し合いが進まない状態で来所
対応の内容 事務所が行った対応の概要(手続きの種類・期間) 調停を申し立て、不動産の評価額と住宅ローンの残額を整理。6回の調停期日を経て合意
結果 事実としての結果。感情的な評価を加えない 自宅不動産について配偶者が取得し、依頼者に対して代償金として○○万円を支払う内容で合意が成立
注記 一般化できない旨の注意書き ※個別の事情により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。

テンプレートを使うときの注意点

  • 「相談時の状況」と「対応の内容」は、依頼者が特定されない範囲で具体的に書いてください。抽象的すぎると読者が自分の状況と重ねられず、事例の意味が薄れます
  • 「結果」は事実のみを記載します。「大幅な増額に成功」のような評価的な表現は避けてください
  • 注記は各事例の末尾に必ず添えます。ページの冒頭にまとめて書く方法もありますが、各事例に付けたほうが読者の目に入りやすくなります
  • 事例の本数は、最初は3〜5件程度から始め、新しい案件が終了するたびに追加していく形が現実的です

まとめ — 3つの条件を満たせば、事例は最も説得力のあるコンテンツになる

解決事例をホームページに掲載するためには、「依頼者の同意」「匿名化」「誇大・誤導の排除」の3つの条件を満たす必要があります。どれか1つでも欠けると、守秘義務違反や広告規制違反のリスクが生じます。

3つの条件を満たしたうえで掲載された事例は、取扱分野の一覧や弁護士の経歴よりも強い判断材料になります。相談者は「この事務所が自分と似た問題を実際に扱った」という事実を求めています。まずは案件終了後の依頼者に同意を取ることから始め、最初の3件を掲載してみてください。

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