この章で学ぶこと
この章では、広告の費用対効果を相談1件あたりの獲得コスト(CPA: Cost Per Acquisition)で測る方法を学びます。クリック数ではなく相談件数をベースにし、その数字を着手金と並べることで、広告が利益を生んでいるかどうかを判断する考え方を身につけましょう。
費用対効果はクリック数ではなく相談件数で測る
広告の効果を測る指標はいくつもあります。インプレッション数(広告が表示された回数)、クリック数、クリック率、コンバージョン数。代理店からの報告には、これらの数字が並んでいることが多いです。
しかし、弁護士にとって意味のある数字は「その広告から何件の相談が来たか」です。クリックが1,000回あっても、相談が0件であれば、その広告は売上に貢献していません。
費用対効果を測る方法はシンプルです。
広告費 ÷ 相談件数 = 相談1件あたりの獲得コスト
この数字が分かれば、「相談を1件得るためにいくらかかっているか」が明確になります。あとは、その金額が事務所にとって許容範囲かどうかを判断するだけです。
手順1: 広告費÷相談件数で1件あたりの獲得コストを出す
用意するもの
- 月間の広告費(代理店手数料を含めた総額)
- その月に広告経由で来た相談件数
相談件数の数え方
「広告経由で来た相談」とは、次のいずれかの方法で計測できる件数を指します。
- ホームページの問い合わせフォームからの送信件数(Google広告のコンバージョン計測で取得可能)
- 「ホームページを見て電話しました」と言った相談者の件数(後述の方法で計測可能)
計算例
| 項目 | 金額・件数 |
|---|---|
| 月間広告費(代理店手数料込み) | 200,000円 |
| 広告経由の相談件数 | 5件 |
| 相談1件あたりの獲得コスト | 40,000円 |
この例では、1件の相談を得るために40,000円かかっています。この数字だけでは、高いか安いか判断できません。次の手順で着手金と比較します。
手順2: 獲得コストと着手金を比較する
相談1件あたりの獲得コストが出たら、次はその分野の着手金と比較します。
考え方
相談が受任につながった場合、事務所は着手金(場合によっては報酬金も)を得ます。獲得コストがその金額を大きく下回っていれば、広告は利益を生んでいます。上回っていれば、赤字です。
計算例
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相談1件あたりの獲得コスト | 40,000円 |
| 着手金(離婚事件の場合) | 300,000円〜 |
この例では、獲得コスト40,000円に対して着手金300,000円以上なので、一見すると十分に元が取れているように見えます。しかし、相談が全件受任になるわけではありません。次の手順で受任率を加味します。
手順3: 受任率を加味して実際のコストを計算する
相談件数のうち、実際に受任になる割合(受任率)を加味すると、受任1件あたりの実際のコストが分かります。
計算式
相談1件あたりの獲得コスト ÷ 受任率 = 受任1件あたりの獲得コスト
計算例
| 項目 | 金額・数値 |
|---|---|
| 相談1件あたりの獲得コスト | 40,000円 |
| 受任率 | 30%(相談5件のうち受任1.5件) |
| 受任1件あたりの獲得コスト | 約133,000円 |
| 着手金(離婚事件の場合) | 300,000円〜 |
受任1件あたり約133,000円のコストで、着手金300,000円以上を得ている場合、広告は利益を生んでいると判断できます。
受任率をどう把握するか
受任率を正確に把握するには、「広告経由の相談」がその後受任になったかどうかを追跡する必要があります。案件管理のExcelや顧客管理システムに、「流入経路: 広告」の列を加えておくと、数ヶ月後に受任率を集計できます。初めのうちは正確な数字が出ないため、3ヶ月から6ヶ月分のデータが貯まってから判断するのが現実的です。
電話問い合わせを計測に含める方法
法律事務所の場合、問い合わせの多くが電話で来ます。フォームからの相談だけを計測していると、費用対効果を実際より悪く見積もってしまいます。電話問い合わせを計測に含める方法は次のとおりです。
方法1: Google広告の通話コンバージョン
Google広告には、広告に表示された電話番号からの通話を計測する機能があります。広告をクリックして電話をかけた件数が分かります。ただし、広告を見てから直接事務所の番号に電話した場合(サイトを経由しない場合)は計測されません。
方法2: 広告専用の電話番号を使う
広告用に専用の電話番号を用意し、ホームページに掲載する通常の番号と分ける方法です。コールトラッキングサービスを使うと、専用番号への着信件数を自動で集計できます。導入には月額費用がかかりますが、電話経由の問い合わせが多い事務所では正確な計測につながります。
方法3: 受付時に聞く
電話を受けた際に「何をご覧になってお電話いただきましたか」と聞く方法です。コストはかかりませんが、聞き漏れが発生します。また、相談者が正確に覚えていない場合もあります。精度は落ちますが、何も計測しないよりは有用です。
いずれの方法でも、計測の仕組みを入れるだけでは意味がありません。集計し、獲得コストの計算に含めるところまでやって初めて、費用対効果の判断に使えます。
まとめ — 相談1件あたりのコストを着手金と並べて判断する
広告の費用対効果を判断する手順は次のとおりです。
- 手順1: 広告費 ÷ 相談件数で、相談1件あたりの獲得コストを出す
- 手順2: 獲得コストを、その分野の着手金と比較する
- 手順3: 受任率を加味して、受任1件あたりの獲得コストを計算し、着手金と並べる
受任1件あたりの獲得コストが着手金を下回っていれば、その広告は利益を生んでいます。上回っていれば、キーワードの見直し、広告文の改善、ランディングページの修正、または広告自体の停止を検討しましょう。
クリック数やインプレッション数は、広告の運用を改善するための指標であって、広告を続けるか止めるかの判断に使う指標ではありません。判断に使うのは、相談1件あたりのコストと着手金の比較です。